『できそこないの男たち』

 「男の体には、生まれもって『一筋の縫い跡』がある」 から開始される。


なんじゃそれ?
睾丸とペニスを引き上げて覗き込んで見る。肛門から迫り上がって来る一筋の〝縫い跡〟(昔の雅語で「蟻の戸渡り」と言われた箇所)がある。それはずんずん陰嚢の袋の真ん中を通過してペニスの先端まで到達している。

「男の子は早いうちからこの筋の存在に気づいている。知ってはいるけれど、なぜこんな線がこんなところについているのか、そのことについて、思いをめぐらせた少年はどれ位いるだろうか」と分子生物学の福岡伸一が『できそこないの男』(光文社新書)で述べている。

……って言われても、私はその存在に気づいてはいたが、「思いをめぐらせた」ことなどは一度もなかった。

 ヒトも昆虫も原生動物もデフォルトはメスである。だから、メスに生まれるはずだったのに、母親の胎内で、途中でオーダーが変わってカスタマイズされたのがオスになる。
 人間の男性の場合も最初は女性の構造であった体が、途中から急遽男性へとオーダー変更が為されるのである。その証拠の痕跡があの〝縫い跡〟である。やっつけ仕事の叩き大工の仕事の「始末跡」なのだ。
既によく知られているように、生物にとってオスという存在は、あくまでもオプション的なものでしかない。メスは単為生殖で子孫をずっと残してきた。オスとメスが揃わないと子孫を残せないというのは、決して生物にとってのデファクトではない。一挙に絶滅を避けるために、遺伝子の多様性を持たせたい。そのために、ムリクリにオスを作った。オスは当初から「精液の注射器」が宿命だ。福岡伸一はそのことをこの本で熱心に説く。曰く、男たちは片手間で作られた「できそこない」であるということを。 まあ、とにかくそれが証拠に男は生命力が弱い。男の赤ちゃんは育ちにくく、成人の男は病気が多く、寿命も女性より短い。
NHKのドキュメンタリー番組でも、「男は数百万年以内に消滅する」という話があったが、人間の男の精子の劣化は激しいらしい。フィンランドでは男性の20%は精子の数が子どもを作るのに不十分であり、ボーダーラインにいる人も合わせるとなんと40%もの男性の精子が生殖機能に不安を残すレベルにあるという。

 しかし、それにしても、そんなその場しのぎ的な構造を持った「できそこない」であるはずの男たちがいまだに社会を牛耳っているのはなぜか?その点についても福岡伸一は面白い推論を展開はしているが、それほどの説得力はないように感じる。

 とにかく、免疫学の多田富雄も言っている。 「女は存在だが、男は現象にすぎない」(「免疫の意味論」)
 「現象」に過ぎないのだって……。 ま、そうだよね。男って〝一瞬の気の迷い〟現象か、ママの遺伝子を、誰か他の娘のところへ運ぶ〝使い走り〟屋風情の者だよね。

(完) 


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