「昭和言葉」というものがあり、これを使っちゃうと、お嬢さんたちから眉を顰めるられるという。その25位に「花金」という言葉がある。いろいろな辞書にも一応掲載されているが、因みに「広辞苑」には──(「花の金曜日」の意) 一週間の勤務が済み、土曜・日曜の休みをひかえた、心の浮き立つような金曜日。──となっている。
この「花金」という文字を見たり、このような解説を読んだりすると、なんとも気詰まりというか面映い感じがする。というのは、この作者が私自身だからだ。証明書のようなものは何もないが、99%は間違いがなくそうだ。
そしてもう一つは園山俊二の『花の係長』という漫画である。主人公の綾路地(あやのろじ) 麻朱磨呂(ましゅまろ)というブサイクな男が、華族出身ということだけが<華=花>で、思想も生活もみんなひたすらただただ庶民的に暮らしているというものであった。これを『週刊ポスト』(1969年〜1982年)で見たか、もしくは連載終了後の単行本をチラチラ見たのか、その時系列と関連してくる。
つまり、この怪しげな〝三角法測定〟によると1982年前後だった推測できる。──「富士ゼロックス」のTV-CMの制作会議を制作プロダクションで予定していた日が休みの土曜日前の金曜日だった。会議の主宰者の自分が、「明日は休みの土曜日。今日は楽しい『花の金曜日』……つまりは『花金!!』」と冒頭で〝口開け〟をやったら、物凄くウケた。軽いジョークの積りだったものが、ヤンヤの大喝采だった。
要するに、この「花」は『花の係長』の「花」をムリクリに持って来たのだ。大体「係長」というポジションが花からはほど遠いし、彼の出自の「華」も含めて、ここの「花」は反語表現だからこそペーソスとともにおかしみがあるのだ。〝言うほどではない〟〝ささやかな〟〝極めて普通の……〟などのおちょくりを含意させたものである。土曜日が休みだからと言って、飛び上がるほどの歓喜では全くない。
であるから、「広辞苑」に載っている「花金」の意味合いは、〝作者〟からすれば相当に遠いものである。
しかし、ウケたものだからそこは哀しい性、いくつかの会議やカフェの喋りに使って、やはり大ウケであった。だが、そんなこといつまでもやってられないので、いい加減に止めて、忘れていた。
2〜3週間経った時に、 久しぶりに会った制作会社のプロデューサーがいきなり「花金」を挿入してきた。「えっ?どこで聞いたの?」と思わず確かめたが、全く知らない場所と人であった。さらに、テレビ局担当の同期からまた「花金」を聞いた。確かめると、その放送局でも盛んに使われているという。
「くちコミ」というものだ。アメリカでは後年、これをWOM(Words of Mouth)と呼び、結構重要なマーケティングのツールにポジションさせている。
自分が作ったTVコマーシャルの反応がこれほどスピードで反響して来た覚えはない。
だからその時も、どこか残念で無念な感じはしていた。
この度、久しぶりに見かけて、〝隠し子〟に再会したような思いがある。未だに25 位なら健闘しているよねって褒めてやりたい。
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