Over the hill

突然に思い出したのだが、アメリカ人と与太話をしている時に、ときどき出てくる言葉の一つがover the hill──。いわゆる「峠を越えた」ということだが、「最盛期を過ぎた」「盛りが過ぎた」「薹(とう)が立った」、そして時には(病気が)「峠を越す」の意味にも使う。



例えば、……こんな風に。
 Some people say that singer is over the hill, but I think her voice gets better with age.
 (彼女の最盛期は過ぎたと言われるが、私には彼女の声は今が一番だ。)

 このイディオムは、他虐にも自虐にも使えて便利だ。大概はこれを言った後、人はえへらえへらと締まりなく笑うのが常。シリアスに考えると辛くなるので、ジョークのレベルで納めておくのが教養なんだろう。 まあ、そのhillが何才くらいなのかは、人それぞれ。アルチュール・ランボーなら20才で、葛飾北斎なら89才になるだろう。
 そういえば、日本の歌謡曲……藤島一郎で『丘を越えて』というのがあったが、恐ろしく明るい……♪ホンガラカニ〜晴れて♪だも。でも、♪はるか希望の丘を越えて♪……越えちゃっていいの?

https://www.youtube.com/watch?v=3M_SfeN3hmw

 一方、 “Over The Hills And Far Away”(Gary Moore) というのもアイリッシュ・ロックであるようだ。
強盗事件の嫌疑で男が捕まった。現場に彼の拳銃があった。実は彼にはそこにはいなかったというアリバイがある。あるにはあるが、その一夜は親友の奥さんとベッドを共にしていたのだ。飲み込んだままにすることとした。それって、牢獄に10年繋がれるという意味合いだ。……檻の中で彼女からの手紙を読む……。 ──Over The Hills に、さらに Far Awayがついてもっと辛い。

https://www.youtube.com/watch?v=7IocRCDWB5k

 司馬遼太郎の『峠』は幕末の長岡藩家老河井継之助を描いた名作であるが、これは越後国、信濃国、上野国の「三国峠」になぞらえた〝歴史の端境期〟の隠喩になっている。彼自身もこの峠を越えて、長崎や江戸へ出掛けていく。
これを『丘』としちゃ、口笛吹きながらの能天気なピクニックになってしまう。




 


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