子どもを持つことの恍惚2022.09.26 10:10◎「幼児期の子どもには輝くような時がある。どのような子でもそれぞれの輝き方で輝くときがある……そういうときの子を抱くときにはうちふるえるような幸福感がある……子どもはきっと大きくなって、思いも掛けない異物となって悩ませたり、走り回らせたりするだろう……しかし、今これほどの幸福感を...
暗愁2022.06.08 01:50「暗愁」という言葉がある。“得体の知れない悲しみ”を表現するらしい。平安時代の知識層・文人墨客の間で盛んに使われていたと言われていて、近代に入っても、森鴎外や夏目漱石などが小説の中で使っていた。それが現代ではすっかり「死語」になってしまっている。その種の感情が日本には昔はあって今...
汽車に乗る2022.01.01 01:44(ニューヨーク・マンハッタン『グランド・セントラル駅』)なんだか通りすがりで、行きがけの駄賃のように、池澤夏樹の『叡智の断片』をパラパラとめくっていたら、飛び込んできたアフォリズム。〝読人知らず〟だという。 「正しいと思うホームを見つけてそこで待っている汽車に乗る。で...
飢餓海峡 2021.10.20 09:51 石川さゆりの『飢餓海峡』。 メロディだけ聴いているとさほどに感じられなかったのだが、改めて歌詞だけを取り出してみると、吉岡治の詞がもの凄い。 ♪ ちり紙につつんだ足の爪 後生大事に持ってます あんたに逢いたくなったなら 頬っぺにチクチク刺してみる&...
3つの箱2021.10.12 11:02日々の生活をなるべく簡明にするために、3つの箱を用意しよう。 世の中にはどのように差し障りがなく丁寧に言っても、次の3タイプはいる。 つまり、「バカ」と「様子がおかしい」と「何やら分からん」というのが。 その名札をつけた箱を3つ作っておき、どうにも扱いに困るものが出てき...
檸檬2021.02.16 09:03駅へ抜ける坂の小道を降りて行くと、右手にレモンの木が植っている。夏の頃にはまだ青い大型の柚子のようであったのが、寒くなって橙色に熟してくる。帰宅の時にもこの坂道を使うのだが、橙色になってから少しづつレモンの数が減っていく。つまり、この小道に面した側から無くなっていくのだ。たわわに...
貧乏な老人の楽しみ2020.10.04 13:39「貧乏な老人の楽しみは勉強することです」 ……ある友人が教えてくれた言葉だが、ボディブローを喰らって足がもつれた。 これも似ている。 「『教養』とは学歴のことではなく、『一人で時間をつぶせる技術』のことでもある」 (中島らも:『今夜、すべてのバーで』講談社)▶︎小説...
落雷 2020.08.01 11:41「20代でかっこよく、30代で強く、40代で財産を持ち、50代で賢くなければ、つまりその人生は何でもない」 イギリスの俚諺だ。「スロットマシーンでジャックポットが4連続しなきゃダメか。そんな者いるか!?」と思った。ま、考えればイギリスのブラックなユーモアで言っているわ...
尊厳死2020.07.24 05:32筋萎縮性側索硬化症(ALS)の女性患者の依頼を受け、薬物を投与し殺害したとして、医師二人が逮捕された。彼らは以前より「安楽死」にたびたび言及していたということだ。 忘れられないドキュメンタリーがあって、ときどき思い出すのだが、今回の出来事が引き金でまた思い出した。 1...
時間2020.01.18 11:50【ショート・エッセイ】木々の葉が紅く黄色く変化している木立のなかを歩いていた。友が「あの紅葉の色って滅びて死んでいくときの色なんだよね……」と、こちらへ聞かすわけでもなく、自分に聞かすかのように呟いていたっけ。いよいよ、その林の中の道を行き交う人も途絶え、自分の足音だけが反響する...