二艘のボート2022.03.07 03:00「レトリックって要するにビジュアライゼーションだ」という言葉があり、「なるほど!」と深く感じ入ったのだが、誰の言葉だか分からず終いになっている。 村上春樹は翻訳家としての活動もあるので、その分レトリックの使い方も欧米人風のところがある。そんなビジュアライゼーションとしての好例が多...
果実の一滴2021.11.07 01:02ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 月は明るかったが、風が強かった。若者が船窓からのぞくたびに、海一面に三角波が立っていた。若者はマンジリともせず、船室に座っていた。眼は血走り、顔は蒼かった。彼の心の中にも無数の三角波が荒れていた...
胡蝶の夢 2021.09.26 00:41「〝あぁ、世界が終わる〟と思った瞬間に、イモムシは蝶になる」 これを永らく荘子の言葉だと思っていたのだが、彼の言葉ではなく、アメリカのの女流作家バーバラ・ハインツ・ホーウエット(Barbara Haines Howett :Ladies of the Borobudur)のもので...
グラスの底についてくるコースター2021.09.13 12:07 「書き出し小説大賞」というものがある。この「書き出し小説」とは、〝書き出しだけで成立した極めてミニマムな小説〟と定義されている。その一行だけを審査対象にするという。ただしこの賞がどれほど権威のあるのかは、さっぱり分からない。 その36回(2013年)で秀作...
どうしても我慢ができないこと2020.11.14 11:09「人間には、見たい、聞きたい、匂いかぎたい、舐めたい、触りたい、妄想、という六つの欲望があるけれども、これらは、百歩ゆずれば我慢できなくもない。しかし、その中でもどうしても我慢できないことは、女の子を想って切なくなってしまうことである。死にそうな爺さんでも、青二才でも、知識人と呼...
文章盲2020.09.12 01:45 たまたま、中島梓の『ベストセラーの構造』(1983年「講談社」)を読んだ。 ▶︎中島梓:『小説道場』『美少年学入門』『マンガ青春記』ほか多数。この評論家・中島の小説家としてのペンネームが栗本薫である。▶︎栗本薫:『僕らの時代』『グイン・サーガ』シリーズ『魔...
自由律俳句2020.07.06 02:04 以前にも種田山頭火と尾崎放哉のことは採り上げた。↓ https://larchmontvillage.amebaownd.com/posts/6144880 ともに自由律俳句の奇才であった。この二人を育てたのが荻原井泉水。二人へ自由律へのきっかけを...
才能は過剰ではなく欠落だ2020.05.05 11:40アメリカ人はHe is gifted.という表現をよく口にします。天や神から優れた「資質」を〝贈られている〟ことを含意として、「才能ある」「天才だ」という意味合いになる。だが、村上龍は「才能とは過剰ではなく欠落である」(『ラッフルズホテル』)と反転させている。だが考えてみれば、「...
ドーダの人 2020.03.13 05:12「遠い昔、人間が意識と共に与えられた言葉という吾々の思索の唯一の武器は、依然として昔乍らの魔術を止めない。劣悪を指嗾(しそう)しない如何なる崇高な言葉もなく、崇高を指嗾しない如何なる崇高な言葉もない。而も、若し言葉がその人心眩惑の魔術を捨てたら恐らく影に過ぎまい。」(『様々なる意...
人間は青年が完成形2020.02.26 03:51「人間は青年で完成し、老いるに従って未完成になってゆき、死に至って無となる」(山田風太郎:『人間臨終図鑑』)ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーそうかも知れないな……と思っていたら、こういう文章を読まされた。武者小路実篤が90歳になる年の文章である。&nb...
蓮根は穴のところが旨い 2020.01.01 07:10【wording】昨年の暮れからこの言葉に悩まされている。阿川弘之が「読売文学賞」を受賞した『食味風々録』のなかで、内田百聞が「蓮根は穴のところが旨い」と言っていると。……このことは百聞の押しかけ弟子であった中村武志の『掘立て小屋の百閒先生』の中に収録されているとのことだ。それを...