相当前になるが、あるテレビ・ドキュメンタリーを観た。
アラスカ半島から太平洋を西に伸びて、カムチャッカに届く「アリューシャン列島」がある。ここに先住民である「アレウト族」というイヌイット(エスキモー)が住んでいる。
カメラが一人の老婆を捉えている。その彼女が壁に向かって一心不乱にしゃべり続けている。彼らの言葉であった「アレウト語」を喋っているのだ。
つまり、彼女より若い世代の言葉は英語になってしまい、「アレウト語」を喋る人は次々と亡くなっていき、その島では彼女以外は誰も喋り手がいなくなってしまったのだ。そのため、毎日彼女は自分の父母や曾祖父たちが喋り続けてきた「言葉」を壁に向かって喋っている。
「アレウト語」を忘れないためなのか、「アレウト語」の鎮魂のためか?多分、その両方の意味なのだろう。
なんという絶望感と孤独感か……。
1995年の段階「アリューシャン列島」全体で「アレウト語」のスピーカーは305人と数えられている。2021年の現在はもう絶滅しているかも知れない。
「人の話す言葉の発生は神秘で奇跡である」という言葉があるが、同時に人類の歴史はその神秘や奇跡の消失を何度となく経験もしてきている。
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