【wording】
アメリカ人がよく使うkilling timeって「時間を潰す」ってことです。カフェでぼーとしているときに、「何してるの?」って言われて、「うん、killing timeね」って。
このkilling the messengerというのは通常は否定を頭に入れ、Don’t kill the messenger.と使います。「良くない情報を持ってきた人を責めるな。その人には何の咎もないのだから」という“八つ当たり”とか“言いがかり”への戒めです。
同じ意味のDon’t shoot the messenger.というフレーズはシェクスピアの戯曲に使われているくらいですから、由緒正しいレトリックなのです。
では、ストレートのKill the messenger.ってどうでしょう。途端に人間の醜い本性が露呈して、陰謀のきな臭い匂いが立ちこめます。「良くない情報を持ってきた者はその場ですぐに消せ」。
地方紙『サンノゼ・マーキュリー・ニュース』紙の記者だったゲーリー・ウェブは90年代半ばに"Dark Alliance(暗黒同盟)"という記事を書きました。それは、80年代に全米に蔓延して問題になったクラック・コカインの癒着です。CIAが支援していたニカラグアの反革命組織「コントラ」の資金源になるようにCIAがコカインを買ってやり、アメリカ国内の販売もサポートしていたという大スクープでした。しかし、CIAはそれを否定し、同業者の大型メディア……NYタイムス、ワシントン・ポストも記事の信憑性を疑い、執拗にウエブを追い詰めました。(たかだかローカル新聞にこんなスクープを抜かれては、沽券に係るという嫉妬もあったのでしょう。)
当該の『サンノゼ・マーキュリー・ニュース』紙も早々に記事を取り下げ、ウェブは孤立し、最後は自殺とされましたが、検死報告で「額を二度撃ち抜いて自殺」という疑わしいものでした。(どうやったら、二発目を撃ち抜けるのだ>)
ただ正しい報道をしただけなのに……愛に満ち溢れていた家庭、新聞記者としてのプロフェッション、そして命そのものまで奪われてしまったウエブ。
「人が思考の特権を発揮すると、自由の最後の影は地平線から抜けていなくなる。」
(マーク・ペイン)
ウエブもその地平線から転がり堕ちた。いや蹴落とされた。
ニック・スコーが2006年にその記事をモトネタにして著したのが『Kill the Messenger』です。2014年それを映画化。(日本にはいまだに未公開)
その中でCIAのエージェントが「Too True To Tell/真実過ぎて誰にも言えない」と呟くのですが、「誰にも言わせない」行為がkilling the messengerということになります。
そして、CIAが事実を認めた時、メディアはクリントンの不倫スキャンダル関わりずらっていて、CIAとコントラの「暗黒同盟」についてほとんど素通りになってしまいました。
NYタイムス、ワシントン・ポストはゲーリー・ウエブの名誉回復のために何かをやったのか?
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