【ショート・エッセイ】
東京から南へ約200km、三宅島の南約18kmに「御蔵島(みくらじま)」がある。伊豆諸島に属し、島全体は豊かな原生林に覆われているが、れっきとした東京都である。
10年以上前、私の友人がこの島へイルカと泳ぐために行った。泳ぎに行ったと言っても、彼は映像監督なので、仕事として赴いた。
この御蔵島の周辺には野生のミナミハンドウイルカが生息し、ドルフィンウォッチングやドルフィンスイムなどのメッカになっていて、日本はもちろん、世界からもそのためにやってくるという。
ミナミハンドウイルカとは漢字表記では「南半道海豚」で、ハクジラ亜目マイルカ科ハンドウイルカ属に属し、ミナミバンドウイルカとも呼ばれている。成体の体長は2mから3mとなり、バンドウイルカに比べるとやや小柄だ。
シンクロナイズドスイミングの選手で小谷実可子さんというのがいた。彼女は選手を引退後、鯨やイルカとの「ヒーリング」に没入していた時期があり、その映像を撮りに僕の友人はその島まで出かけたのだった。
監督といえども船の上にだけいるわけにはいかない、彼の人生でそんなに泳いだことがない10日間を過ごした後、宿泊先の部屋で突然イルカからのメッセージを貰ったという。
「何語で?」と間抜けな質問をすると、
「いや、脳に直接コンタクトしてきている感じだから、何語とも言えない」
「で、メッセージの内容は?」
「地球はひとつの生命体だ。イルカ人間もその一つの構成要素。そのなかで一番大切なことは『サイクル』ということだ。もしキミがボクを食べたいのなら、それはそれで構わない。サイクルなのだから。このサイクルを狂わさないように人間もちゃんとやって欲しい」
とても深いのに驚いた。
有史以来、イルカが人間に敵対したことはない。イルカが人間に愛を与えたことは数かぎりないくらいある。もっとも魂消たのは、ある人が遭難してサメに襲撃されたが、イルカのチームがサメに体当たりを食らわせて追い払ってくれたという話だ。
いろんな民族でイルカから知識や叡智を授けられたという伝承も多い。それらの民族ではイルカは霊的に進化した存在で、宇宙のどことでもコミュニケートできると信じられている。
だから、日本人がイルカ漁を正当化すればするほど、彼らはイラついたり、激怒するのだ。
とあれ、その友人はそのメッセージを貰ってすぐ、いままでのライフスタイルを捨て、それまでの会社も辞め、新たな人生に踏み出した。
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