最低共通文化

 「(その社会では)オーケストラの演奏会などというのも、テレビで見せ たりするでしょうね」 「やったとしてもポピュラーな曲ばかりをショウ的にやるでしょうね。 本格的な交響楽というのはやはり特殊なもので、一部のインテリのための 藝術とされているだろうから」
「しかしそれだと、オーケストラとはこのようなものだという誤解が広まり ませんか」
「当然拡まるでしょう。つまり文化というのはすべて面白おかしく、やさ しく、娯楽的でなければいけないとするしゃかいですからね」
(中略)
「つまり何もかも、そのう、本来の文化ではなくて、いわば最低共通文化 とでもいうべきものに落ちるわけだな」
おれは思わず手を打った。
「まさにそうだと思うね。そうだ。テレビだけではなく、新聞や雑誌など、 あらゆる情報機構によって、すべての文化が、その最低共通文化にまで 落ちるんだ。 映画や音楽だけじゃない。文学も、科学も、歴史もだ」

(筒井康隆:『美藝公』)

 ※筒井康隆がこの小説を書いたのは1980年。2018年の日本の社会はすっかりこれを追い越してしまった。  

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