禿頭から毛は抜けない

【ショート・エッセイ】

「フィットネスクラブ」の風呂から上がって、ドライヤーなどがおいてあるいわゆる“パウダールーム”。そこで髪へ熱風を送って乾かしている。
そのすぐ隣に禿頭の爺さんがやってきた。

(うん?場所まちがえてねーか?)

それにして見事なものだ。日本人は丸型の「短頭型」が多いのだが、彼のは前後に長い「長頭型」。戦闘機が何機も着艦できる航空母艦のようにてっぺんは平らで広大だ。
顔立ちも濃く、若い頃にはフランスの至宝ジダンに似ていたかもしれない。
「無い袖は振れない」というのを、ドイツでは「禿頭から毛は抜けない」というニベもない言い方をする。
この爺さんもニベがない。抜けるものが一切ないツルツルのつるっ禿げだ。
 
こちらの思惑に関係なく、おもむろにドライヤーのスイッチを入れ、 いきなり自分の股間に向かってゴ〜〜!とやりはじめた。

(くぁwせdrftgyふじこlp!)

爺さん、うっとし悦楽の程。
そこは青々とはいかずとも、まだつるっ禿げではないし……。

(なーるほど!その手があったか!)


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