ギブミー・チョコレート

【こんな話】

小学校1年生とか2年生くらいだったと思う。
小学校から出て遠くない橋のたもとに「占領軍」(「進駐軍」という妙な名前だが)のアメリカのGI 2人がジープで来ていた。
東京あたりではよくあった風景なのかも知れないが、北海道の片田舎では、GIがジープで走るのをほとんど観ていない。

その二人のGIがジープからチョコレートやキャンディなどを地面にばら撒いていた。それを子供達が取り囲み、みんな血眼で拾ってポケットにねじり込んでいた。
その頃の食糧事情で言えば、甘いものなんて野生のグミとか山葡萄くらいしかなかった。甘いものには本当に飢えていた。しかし、犬じゃないんだ。地面に投げられたものを拾えない。

そんな立派だったかどうか?とにかく、その狂奔の場に足を踏み込むことはどうしてもできなかった。ジープを取り囲む輪から離れて佇んでいる小学生の私を、GIのうちの一人がじっとこちらを見た。こっちも見返す。〝あっ、目が青い!〟彼がちょっと微笑んだ。えっ?何?……精々5秒くらいの事だったんだろう。

その半年後くらいで、不良の叔父貴が、どこかの闇市からチョコレートを持ってきた。兄弟が多いので、分け前は銀紙に包まれたままの板チョコの一区画。
一口食べて、気を失いかけた。頭の芯までが痺れた。〝これだもの、戦争に負けるはずだ〟と思った。食べ終わったあとも、チョコレートの匂いが移っている銀紙が捨てられなく、大事に仕舞い込み、ときどき取り出して匂いを胸いっぱいに吸い込んでいた。
完全に負けていた。

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