「俺の先祖は海賊で……」とか「辿っていくと、村上水軍なんだ」とか鼻をピクつかせて自慢気に語る奴がたまに度々いる。ところが、「俺の先祖は山賊でさぁ……」って自慢するやつには一度として会ったことはない。山賊じゃ絵にならないし、ロマンもないらしいのだ。
スティーブ・ジョブスが初代マッキントッシュ・チームへ、「海賊になれるのに、なぜ海軍に入る?」とハッパを掛け、鼓舞したのは有名な話。「海軍」というのは、多分IBMの隠喩らしいのだが。
英語のPirate(海賊)のなかには、どうも〝英雄〟というニュアンスが含まれているらしい。それって、スペイン無敵艦隊「アマーダ」をやっつけた海賊出身の「キャプテン・ドレーク」の存在が影響しているという説を聞いたことがある。
英国の軍港「プリマス」の小高い丘から、ドレイクはいまだにスペイン方面を睨んで仁王立ちしている。彼は若い時にスペインの海軍から酷い目に遭い命からがら逃げ延びたのだが、その仕返しを執念深く一生ずっと続けた。
出資者を募って、その金で世界一周の航海に出たが、スペイン領の植民地を次々襲い、金銀財宝を強奪して、帰国して出資者へ4700%という高率の返還をしたという。エリザベス女王には国費を上回るものを返している。
そんなこんなで、英国では「サー」の称号を持つ紛れのない英雄だが、スペイン人は彼を悪魔の使いの「ドラゴ」(ドラゴン)と呼ぶ。 「提督」にもなっているが、中身は一生海賊であり続けた。
ドレイクの活躍より90年くらい前に、銅像からさほど遠くない桟橋から、「ピリグラム・ファーザーズ」を乗せた「メイフラワー号」がアメリカに向けて出港している。それを記した小さくて粗末なプレートが桟橋横に嵌められてあった。国を捨てていった逃亡者たちなのだから、そんなところが相場だろう。
1979年10月。この銅像の足元からイギリス海峡を見ていたが、まったく穏やかなもので、カモメが海から吹き上げてくる風に遊んでいた。
(完)
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