【wording】
海に出て木枯帰るところなし
▶山口 誓子は京都府出身の俳人。
†海に吹き出した木枯らしは、(遮るものがないので)どこまでも帰るところがなく吹いてゆく。
†当句は昭和19年によまれたもので、句集『遠星』(昭和22年6月)に収録されています。
療養のため四日市に居を構えていた誓子が、当時開始された「神風特別攻撃隊」により命を散らした若者を、海上吹きすさぶ木枯らしに例えてよんだ句です。
太平洋戦争のさなかに発表された句ということもあり、直接的な表現を避けたのでしょう。一見、北伊勢の情景を客観的によんだ句のようにみえますが、太平洋へ向かって吹き、決して日本に戻ってくることのない木枯らしを主体化した当句は、命のはかなさと戦争の無惨さを見事に表現した逸品といえます。
この句を友人から教えてもらったとき、胸にぽっかりと穴が空き、そこを木枯らしが吹き抜けていく思いがしました。
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