【wording】
━━圧縮と解凍を繰り返されて「aijou.mov」は壊れた
(笹井宏之『てんとろり』ー2011)
作者は、重い病気を抱えながら携帯サイトに短歌を発信し、歌集を出版してその才能がついに認められはじめたというところで26歳で夭折してしまった歌人。
ときおりコンピュータ用語を詠み込むのは、インターネットが広い世界とつながれるほぼ唯一の窓であったからだろう。
「圧縮と解凍」というのは、元システム・エンジニアの歌人の穂村弘が好んで使う言葉。つまり、 短歌の難しい側面は、書かれた情報に「圧縮」がかかっていて、読み手はそれを「解凍」しなくてはならない。
「mov」というのはアップル社のメディアプレーヤー(音楽や動画の再生ソフト)QuickTimeの拡張子である。
「aijou.mov」……「愛情mov」っていうか……。
「愛情」は余りにも多義的でかつ隠喩的。それを「圧縮と解凍」「圧縮と解凍」……を繰り返しているうちに、その拡張子が壊れてしまった。
なんとも辛い。コンピューターの拡張子を使うことにより、とてつもない孤独の歌ということがさらに強調される。
そのほかの歌も……。
━━スライスチーズ、スライスチーズになる前の話をぼくにきかせておくれ
━━ 最初から入っている愛の切れ目を歌手は拡大して歌うのだ
━━すじすじのうちわの狭い部分からのぞいた愛という愛ぜんぶ
━━はさみで切って使いきられたねりからしチューブみたいな俺を愛せ
愛したい。愛されたい。愛したい。愛されたい。
0コメント