気の強いオーラ

多分身長は180近くあったのだろう。ちゃんとした美人でもある。 アメリカ人なら“ゴージャス”というと思う。最上級の褒めだ。 

 彼女と一緒に銀座から日比谷までを歩いたときに、すれ違った男たち(女も)が振り返って見ているのが、男のボクが背中で感じた。もちろん、彼女の横顔、胸、ヒップなどにも密やかにもしくは相当無遠慮に視線は注がれるワケで。〝ああ、そうなのか。美人というのは男からのエロティックな視線を受け続けて、彼女たち自身もそのことを十分に認識・意識しているものなのね。そして、そのことがまた一層美人にさせる亢進剤になるものなのね〟って男のボクが疑似体験させてもらった。そのことを彼女に言ってみたが、yesともnoとも言わず、“ふふふ”と笑っただけだった。

彼女はブランドのロゴなどをクリエイティブするファームのアートディレクターであったが、ついちょっと前にドイツの大学のアート・スクールを終えたばかりと言っていた。(マスターかな?)「歳は27歳」だとなんのたじろぎも見せずにすっと言った。

「そんなにお勉強が好きだったの?」
「ううん、ドイツでは皆30歳くらいまでは大学にいることが普通なのよ。私なんか大学を離れるのが早い方なの」


父親がドイツ人で母親が日本人であった。名前はアリス・アイコ・エンゲルと名乗った。母親の故国へ来てみたくて、今のグローバル・ファームの日本法人に応募したのだと言っていた。

「エンゲル係数を考えたのって、キミの親戚筋?エルンスト・エンゲル……」
「なにそれ?誰?聞いたことない」
「知らないの?家計に占める食費のパーセントのことだよ」
「はあ?それがどうしたの?」
「その%がデカいほど貧乏だってこと」
「あらっ?私の姓をコケにしているの?」
 「とんでもない。『エンゲルの法則』の話をしている」
「そんな係数とか法則は知らない……。私の『エンゲル』という姓は、英語だと『エンジェル』なのよ」
「ありゃ〜、『不思議の国のアリス』で、『愛子』で、『エンジェル』か。名前もゴージャスなんだね」

まあいいさ、「エンゲル係数」なんて最近は死語に類するのかもしれないし。
で、次の話が面白かった。
 ドイツでは基本的に「気の強いオーラを常に発していないと、ナメられる」という部分が強いという。(多分、漢字だと凛然ということだろう。)
仕事や人間関係、スーパーマーケットで買い物中……などでさえ生活のあらゆる場面において。だが、日本では「私は強いんです!」というオーラを出さなくてもナメられないから、すごく楽なんだって。これは凄いありがたく思っていると言っていた。
彼女は日本人の血が入っているので、一般的なドイツ人よりはよほどマイルドなコミュニケーションで行っているらしい。それでも、日本のコミュニケーションは相当にぼんやりで、湿っぽいと彼女には感じるらしいのだ。その〝ぬるま湯〟が心休まるって……。

0コメント

  • 1000 / 1000

砕け散ったプライドを拾い集めて

ことば、いい話、ワロタ、分析・洞察、人間、生き物、身辺、こんな話あんな話、ショート・エッセイ、写真、映像……など