あなたのためなら死んでもいい

明治維新で開国して欧米の文明が怒涛のように日本に流入してきたときに、その当時の教養人が欧米概念語を次々と「和製漢語」に翻訳し、そのことが彼らの社会、文化、政治、経済(これらも「和製漢語」そうだが……)などを日本人がキャッチアップする速度を高めたてくれた。「民主主義」「芸術」「科学」「理性」「知識」「概念」などといった言葉たち……その多岐にわたる数の多さには本当に圧倒される。

二葉亭四迷はロシア語のI love youを「あなたのためなら死んでもいい」と訳したという話があって、「あなたを愛している」よりも数十倍も強いなあと凄く感心していた。
だが事実は、男からI love you!と言われた女がYours.(もうあなたのものよ)と答えたところを「死んでも可いわ……」と訳したことが、ちょっと一行ズレて伝わったみたいだ。

今の「愛しています」っていうのは、もともと日本語表現にあった「花を愛でる」の「愛」をピックアップして、人に対しての感情にも使い始めた。しかしまだ完全に日本語にはなっているとは言えない。

それよりずっと前の戦国の世。宣教師が説く切支丹もれっきとしたキリスト教だからLoveという大切な言葉がある。これを「御大切」って訳して使っていたという。「慈悲」だと仏教になるんだろうね。
その宣教師の一人が、日本人の信徒がkissをするのに、ベロベロと舐めるのが気持ち悪かったと述懐していて笑った。「接吻」というのも明治の頃の「和製漢語」で、戦国時代の信徒たちの概念とすれば、情交の際の「口吸い」だったから、宣教師にとってはすごく気持ち悪っただろうなってオモタ。

日本に留学してきている若い男と話していて、彼が、

「日本人は家族と電話しても、切る時に『愛してる』を言わないけどさ、その代わり、『ちゃんと食べてる?』っていうのがわれわれが言う "I love you" なんだよね。でしょ?」

って言われて、なんだかジーン!とした。

とにかく、Loveが日本の社会に定着するには、もっと時間が掛かりそうだ。

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