【wording】
レヴィ=ストロースの伝説的な著作『悲しき熱帯 』。ブラジルの未開の部落へのフィールド・サーベイをも含めた紀行文だが、文化人類学や構造主義のバイブルともされている。
深く練られた知性と情緒も叙事も自在な文章力に感嘆する。
……ときどきいるよね。自分の専門は異なるところにありながら、文章がとても優れている人って。
この人もそうだ。この世の仕組みという大きなテーマへの執着がなければ、物書きになっていたのだろうと思う。
そして、その『悲しき熱帯 』の末尾に、
「世界は人間なしに始まったし、人間なしに終わるだろう」
という人類学者らしくない、もしくは、人類学者らしい言葉で読者を突き放してくれる。
そのうえで……
「ともあれ、私は存在する」
って言っちゃって。
“はい。私も恥かしながら、存在します“
と呟く。
ジャン=ポール・サルトルが「実存主義」の旗印を背中に背負い、レヴィ=ストロースが「構造主義」を背負い、大論争を繰り広げたのは有名だ。
人間の「現実存在」を起点とするサルトルと構造の一要素としての人間を捉えるストロースでは宿命的な乖離……「イスカの端の食い違い」だったんだろうとは思う。
でもね、サルトルがストロースを得て、ストロースにサルトルが居たことは、それぞれにとってとても幸福なことだったと思う。
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