飛べないことを知らないから飛べる

【こんな話】

庭先で久しぶりにマルハナバチを見た。残り少なくなったトラノオの花の周りを飛んでいた。
このデブちゃんが好きだ。
というのも、この太っちょの「翅の面積とその翅のはばたきのスピードや回数をどう計算しても、力学的に飛行できるほどの浮揚力はない」のだという。あくまでも理論値ではあるが、この重い体を浮揚させ得るはずはないのにと研究者は首をひねる。
だが現実に、このデブは飛んでいる。で、……結論はこうだ。
  
「自分で飛べないことを知らないから、飛べる」  

それ以来、庭先にこのデブちゃんが花のまわりを飛んでいると、

「おうおうお前か、今日も“気合”で飛んでいるのか?いつまでも、オノレを信じていろよ~。人生に疑問なんか持つな。ロクなことにならんから……」


などと声をかけてしまう。
彼は多少ヨタヨタモタモタしながらも、次の花の蜜に誘われて、自分の危うさを知らずに、一丁前にホバリングなんか交えて飛翔している。
まったく、露ほども自分を疑ってなんかいない。
「無知の勇」。

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