アーティチョーク畑とアイスクリームとバッテリー

今では相当に有名になってしまったTED(Technology Entertainment Design)カンファレンス。その第一回目が1984年カリフォルニア州はサンフランシスコに近いモントレーで開催された。

友人の女性とその夫と3人でLAからモントレーへ向かう。海岸通りの風光明媚なのはルート101なのだが、時間がかかりすぎるので内陸部のアーティチョークの畑が死ぬほど続くI-5で行く。

女性はコンビア大学の数学を修め、マスターでは映画というユニークな経歴。夫は同じ大学のサイエンス学部のマスターでケミカルだったと思う。彼はグアムの出身でアントニーという静かな男であった。まあ、とにかく私が彼らを凌いでいるのは私の年齢だけしかなかった。

車で6時間ほどの行程なので、三度ほど休憩に入ってくれるのが救われる。とても典型的なアメリカの街道沿いのダイナーズ。分厚い背もたれのボックスシート。「二人ともアイスクリームがいいんでしょ?」と彼女が母親のように決めつける。 

「アントニーもアイスクリームが好きなの?」 
「うん。グアム島のアイスクリームって牛乳のミルクじゃなくココナッツ・ミルクでね。それはもう飽き飽きなのね。大きくなったらミルクのアイスクリームをたらふくというのが夢だったのね」
「グアムにはホルスタインはいないの?」
「さあ〜て、見たことがない」

彼は伝説の億万長者ハワード・ヒューズの会社の一つ「ヒューズ・エアクラフト」の研究職だという。

「で、何をやっているの?」
「ケミカル・バッテリーの開発をしているんだけど……」
「はあ〜、ケミカル・バッテリーね……(乾電池とは違うのか?)」

話の接ぎ穂が見つからない。
アーティチョーク畑とアイスクリームとバッテリー……食い合わせはどうなんだ?

さあ〜て、ともかく、あと2時間でモントレーだ。


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