デブのねじり込み座り

コロナ前のことではあったのだが、ほっそりとした華奢な感じの若い女性がその頃の悩みを語りだした。
電車に乗っていると必ずと言っていいほど、〝デブの捻り込み座り〟の被害を受けるというのだ。多分、彼女がほっそりとしている分、彼女のサイドに隙間が出来易いのだと思う。到底ムリと思われる彼女の脇の僅かな隙間へ、デブが大きな尻と体そして肩幅をねじり込んでくる被害に度々会うのだと、悲しげな目をして訴えてくる。

「そのデブって男なの?女?」
「両方です」
……と弱々しく笑う。

 「デブは一人前の料金でいいのか?2倍取ってもいいのではないか?」
 という論や、
「そもそもデブは電車に乗ったとしても、座るべきではない」
という論を聞いたことがある。

 一度目撃した信じがたい光景は次のよう。
乗客席には一箇所やや狭いながらも隙間があった。 そこを目指して肥満漢が歩み寄ってきて、座ろうとしたときに、その横にすでに座っていた男が、

「いやいや…無理でしょう。止めて下さい」 と〝座るな〟と制止した。
「えっ?!空いているのにダメなんすか?」とそのデブ。
「どうみても、無理でしょう?コレは」 と座っている男。

そのヤリトリを側で聞いていた当方は緊張したが、 肥満漢は黙ってつり革を掴んで、窓の外を見ていた。心は沸騰した釜の熱湯のようにたぎっているに違いなかったはずだったが……。

 「『やせ我慢』の反対は『デブ大暴れ』」 って誰だかが言っていたが、我慢ができるデブでよかった。 

(完)


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