幼態成熟


小学校に入学したときその女の子と同じ組であったという。私がその子を「可愛い、可愛い」と言って抱き締めて離さなかったらしい。その事で担任の先生からお袋が厳重注意を受けたことを随分後になって聞かされた。
その子はごく近所の女の子だった。でもその頃は男の子と女の子が混じって遊ぶことはなかったのだと思う。顔見知りだが会話をしたことは一度もなかった。

小柄な子で利発そうな眼がいつもくるくる動いていた。運動神経も優れていて、運動会でも花形だった。その子とは中学、高校と同じだったが、とても〝若見え〟で、中学時代には彼女一人が小学生の趣で、高校時代は彼女だけが中学生の佇まいであった。

「北モンゴロイド」を特徴づけるのは「幼態成熟(幼体成熟)」=「ネオテニィー」である。そもそもが「ホモサピーエンス」というのは霊長類のなかでの「ネオテニィー」種であるという。比較的大きな脳、脊椎上の前方に展開した頭蓋、体毛の消失というのはチンパンジーの胎児段階で見られるもの。胎児のみならず、幼児のチンパンジーの風貌はとても人間に近い。(だが、成獣は顔も黒くなり、“獣”になってしまう。)

 

モンゴル、中国、韓国、日本あたりにはこのこの「ネオテニー」の特徴を持つ者が多い。これはは〝かわいらしく〟見えて高く評価され、それが優位の遺伝子となったというのは十分に考えられるのだという。


かくいう私も、36歳の頃サンフランシスコ空港でスポーツタイプの車(「トランザム」)をレンタルしようとしたら、そこの女性スタッフが「25歳を超している?」って訊いてきた。免許書を見せると、「どうして、日本人ってそんなに若く見えるのかな?」と言い、返す刀で、「私は幾つに見える?」と訊くので、相当にオマケして、「25くらい?」というと大きく落胆して、「まだ19よ……」って肩を落とした。

話は戻す。
その彼女とは高校までずっと一緒で、家も近所。それでも、一度も話したことはなかった。「一言も話しをしたことがない幼馴染」という矛盾撞着した表現ってあるものなのか?あるとすれば、それだと思う。
彼女は高校卒業後、地元の銀行へ就職、私は上京して大学へ。それ以後実家も関東に移り、地元の同窓会・同期会の類に出ない期間が30年以上も続いた。

そして、今回60年ほどの時空を超えて、突如彼女と会った。生まれてから一度も彼女と話したことがなかったのに、とてもスムースなコミュニケーションに互いに驚いた。つまり、何も話さなくても、ノンバーバルなコミュニケーションは確実にあったのだなって、今は思う。

そして、同期会後の二次会でカラオケへと彼女も含めて何人かで行くことになり、メンバー登録を私が代表としてすることになり、〝札幌のカラオケになんでオレがメンバーになるの?〟と思いながら、しぶしぶiPhoneでエントリーしていると、彼女がちょこんと脇にいて画面を覗き込んでいる。私の生年月日の入力を見て、「あっ、私より一日だけ弟なんだァ!」と笑った時、すごく可愛くて……。
〝おねーさん〟とか言ってまた抱き締めたくなったが、もう大人だから我慢した。

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